今日あった「違うのに!」
コーヒーを飲みたいわけでもないのに喫茶店へ行く。
数日前、僕はその店に傘を忘れて帰っていた。
「ここで傘忘れちゃったんですけど」
と入り口で出迎えてくれた店員さんに言うと
「いつぐらいですかね?」
「多分三日前ぐらいだと思うんですけど」
「どんな傘でした?」
「ビニール傘です。透明の。普通のやつです」
「少々お待ち下さい」
店員さんは店の奥に入り、それから透明なビニール傘を5本持ってきた。
「この中にありますか?」
ああこれだな、と思う、はっきりと見覚えのある傘があったので僕はそれを指さして、
「ああ、これです。ありがとうございます」
とお礼を言って受け取った。
受け取って、それからふと店員さんの顔を見ると、
呆れたような、人を小馬鹿にしたような、実に不愉快な苦笑いの表情。
僕は何だこいつ、と思ったのだけど、まぁ用事も済んだので、店員さんに一礼して店を出た。
その帰り道、ぷらぷら自宅まで歩いている途中に、はっと気がついた。
僕の選んだ傘は、他の四本の傘と比べて、あきらかに新しくて綺麗だった。
思い返すと店員さんのあの顔は、
「こいつ、一番良い傘持って帰ろうとしてるやん。絶対自分の傘ちゃうやんそれ」
といった感じの表情だった。
なんてこった!違うのに!
このたまたま他の傘より綺麗なやつが!
僕の!本当に僕の傘なのに!
違うのに!