都度都度ハッピーエンド

 

リビングでキャットフード

かりかりと音立てて食べる飼い猫を見ながら

淹れたコーヒーにミルクを落とした

瞬間、

 

流れる壮大なファンファーレ。

トランペット、ドラムロール。

ドラムのピッチが最高速に達し、鳴り響くシンバル。

暗転。

画面外から飛んできた羽のペンが画面中央に大きく「Happy End」と綴る。

 

 

 

左手の人差し指の爪を切り終え、

中指に爪切りの刃をあてた

瞬間、

 

流れる壮大なファンファーレ。

トランペット、ドラムロール。

ドラムのピッチが最高速に達し、鳴り響くシンバル。

暗転。

画面外から飛んできた羽のペンが画面中央に大きく「Happy End」と綴る。

 

 

 

職場の休憩所でタバコを吸いながら

ぼんやりと窓の外の夕日を見るでもなく見ている。

天井からぶら下がったちぎれた蜘蛛の巣が揺れている。

そろそろデスクに戻ろうかなと思い

タバコの火を灰皿に押し付けた

瞬間、

 

流れる壮大なファンファーレ。

トランペット、ドラムロール。

ドラムのピッチが最高速に達し、鳴り響くシンバル。

暗転。

画面外から飛んできた羽のペンが画面中央に大きく「Happy End」と綴る。

 

 

アウト

バイトの休憩中、同僚の女の子に

「八木さん今日髪型かっこいいね、良い感じです」と言われ、

「ありがとうございます。片陸ポイントを…」と言いかけて、やめた。

 

容姿を褒められたら片陸ポイントをあげようとするクセがついてしまっている。

あやうく片陸さんを知らない人に片陸ポイントをあげるところだった。

 

セーフ。

(片陸ポイント…?)みたいな空気は流れたていたけども、セーフ。

ハピネス

ランプの魔人に

「3つ願いごとをかなえてやろう」と言われたとしたら僕は、

 

1つ目に、魔人だったらどういう願いごとをするか聞き、

2つ目に、その魔人の願いごとを叶えてあげ、

3つ目に、3万円貸してもらう。

 

そしてその3万で寿司を食って

新しい靴を買う。

 

月末に来る魔人からの督促のLINEに

手を合わせて謝っている動物のスタンプで返す。

 

文字は一切打たない。

スタンプだけで対応する。

日記

夕方に直撃するはずの台風が南側に逸れ

ずぶ濡れになって帰ろうと思っていたのに小雨がしとしと降っているだけだった。

生乾きの服を着たまま少し寝て、それから犬を散歩に連れていく。

外はもう暗い。雨は完全にやんでいる。

斜めに半円、より、やや大きいくらいの月が薄く見える。

昨日、隣のアパートの垣の根本に捨てられていたプラスチックのタンブラーが今日もそこにそのままある。

「神様のね…」

チャイムが鳴ったから庭に出ると

門の前におばちゃんが二人立っていた。

この時点で大体分かった。

宗教の勧誘だ。

宗教の勧誘は基本的におばちゃん2人のツーマンセルで行われる。

オッサン2人のツーマンセルで行動する刑事とは対を成す存在だ。

 

おばちゃんA「聖書って読んだことあります?」

僕「あんまりないです」

おばちゃんB「原本はないかもだけど、多少は分かりますよね?有名なエピソードとか」

僕「あんまり分かんないです」

おばちゃんA「どういうところが印象に残ってます?」

僕「印象…ヨブ記とかですかね?」

おばちゃんB「あぁ、ヨブ記…」

おばちゃんA「神様のね…」

おばちゃんB「えぇ、神様の教えの…」

 

この人たち聖書読んだことなさそう、って思った。