敗北

僕の無知を誤魔化す渾身の必殺技

「あんまり興味ないんで…」をいとも簡単に打ち破る

「いや、興味なくても普通知ってるでしょ」

「神様のね…」

チャイムが鳴ったから庭に出ると

門の前におばちゃんが二人立っていた。

この時点で大体分かった。

宗教の勧誘だ。

宗教の勧誘は基本的におばちゃん2人のツーマンセルで行われる。

オッサン2人のツーマンセルで行動する刑事とは対を成す存在だ。

 

おばちゃんA「聖書って読んだことあります?」

僕「あんまりないです」

おばちゃんB「原本はないかもだけど、多少は分かりますよね?有名なエピソードとか」

僕「あんまり分かんないです」

おばちゃんA「どういうところが印象に残ってます?」

僕「印象…ヨブ記とかですかね?」

おばちゃんB「あぁ、ヨブ記…」

おばちゃんA「神様のね…」

おばちゃんB「えぇ、神様の教えの…」

 

この人たち聖書読んだことなさそう、って思った。

優しさ

僕は優しい男なので、

頭の中で腹立たしい人間を殴るときでも、女性をグーでは殴らない。

肩を強めに押すくらいで済ませている。

 

男性はグーで殴る。

中指を尖らせてこめかみを殴る。

 

慈悲はない。

それが良い悪いではなく、ただそうだろうなということ

若い男女がひと組歩いている。

歩調が早い。

男はいつものように歩いている。

女は明らかに男に合わせて歩いている。

男は軽快なトークを繰り広げている。

女は相槌を打つものの、話の内容が全く頭に入ってこない。

こいつ歩くの早ぇ~、と思っている。

男はそれに気づかない。

こいつ歩くの早ぇ~、と思われていることに永遠に気づかない。

事実の羅列

バイト先の休憩室で社訓の書いてあるホワイトボードをぼんやり見つめながらお茶を飲んでいると、

主任が入ってきて、本社から役員が来てるので挨拶するように、と僕に言う。

僕は早速事務室に向かい、その役員におはようございます、新入りです、と挨拶をする。

役員はよろしく、と言ったあとにやや間を置いて、髪が気になるな、と前髪を払う仕草を見せる。

僕は髪を切りたくないので、無言の曖昧な笑顔で対応。

今日暑いね、と話題を変える役員。

暑いっすね、ここ2、3日かなり暑いです、と話題に乗っかる僕。

うん、髪切ったほうがいいよ、と話題を戻す役員。

僕は髪を切りたくないので、無言の曖昧な笑顔で対応。

意味のない時間が流れる。

役員が黙って部屋を出たので、お疲れ様です、とやや声を張って頭を下げる。

僕は休憩室に戻り、社訓の書いてあるホワイトボードをぼんやり見つめながら

髪切ろうかな、と思った。

何をかは言わないけども

失ったとき分かるんじゃなくて、手に入れたとき分からなくなるんだと思う。